ビジネス美学

私という人間を買ってもらう

入社直後の支店長の言葉に触発されてから、新人のときから面白いように成績が上がりました。
それは、MRとして、病院の先生に誰よりもたくさん薬の紹介や情報提供をしていた訳だからではありません。
訪問先はまったくの新規でしたから、会社や製品を理解してもらう前に、まず私自身を理解、信頼してもらう必要があります。お医者さんとはいえ同じ人間です。ビジネスの前に、人間どうしのお付き合いから始めました。

例えば、寿司折を2人前買ってから、先生を訪ねます。先生の部屋に招き入れてもらえたら、おもむろに「先生、一緒にご飯を食べていただけませんか?先生の分もお寿司を買ってきてありますので。」と言うのです。
先生はびっくりして「え?君は、薬の宣伝に来たんじゃないの?」聞きます。「いいえ。そんなことはどうでもいいんです。実は、会社に入ってから人生で初めて一人暮らしを始めました。最初は外食も珍しく、色々食べ歩いたりしましたが、一人でご飯を食べる侘しさほど寂しいものはありません。先生、どうか一緒にご飯を食べてもらえませんか?」とお願いすると、「そんなことなら、いつでもいらっしゃい。」ということになりました。それから、何度か一緒にご飯を食べているうちに、先生の奥様のお料理をご馳走になったり、趣味の話などにも及びます。また、ある得意先では、先生が居合い抜きをやっていると聞けば、毎週居合いの道場にも通いました。

また、ある日先生が「芳井君、いつものようにご飯を食べていくだろう?」と誘ってくれました。生憎、その日は一緒に食事をする時間がなかったのですが、そのまま先生に伝えるのも忍びなく、「先生、ごめんね。実は好きな女の子が出来て、今日はこの後デートがあるんです・・・。」と答えました。すると先生は、「そうか。それならデート代は足りてるの?」とお小遣いの心配をしてくれたのです。せっかくなので、私が「いえ、実はあまり手持ちがないんです。」と言うと、先生は「じゃあ、これを持っていきなさい。」と1万円を渡してくました。
実際はデートの予定など入っていないので、1万円の使い道はないのですが、翌日、先生にお礼として電気髭剃りを買って持っていきました。「先生、ありがとう。実は夕べ、食事の後に彼女がもう一軒飲みに行きたいって言い出して、そのままだったらお金がなかったんです。先生の1万円のおかげで飲みに行けて、彼女も喜んでくれました。先生、本当にありがとう!!」と言って髭剃りを渡すと、先生も自分のことのように喜んでくれました。

他にも、夏の暑い日に「先生あまりにも疲れたからベッド貸してー。こんなこと先生にしか頼めないよ。」と言って少し休ませてもらったこともあります。

私が末っ子ということもあって、甘え上手なところもあるかもしれませんが、どういうきっかけであれ、まず自分を知ってもらい、自分を好きになってもらう。そこから、徐々に揺るぎない信頼関係を築いていくことが、ビジネスでも長く深いお付き合いになっていくのだと思います。

信頼を裏切らない

信頼関係を築くとことも大変ですが、築き上げた信頼を裏切らないことも、とても努力を要することです。
相手が求めていること、相手が喜びそうなことについて徹底的に考え抜き、時には演出をすることも必要です。

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