髙松建設株式会社
代表取締役社長
髙松 孝年 氏
髙松 孝年(たかまつ たかとし)氏
1970年9月6日生
1998年4月 髙松建設入社
2013年6月 髙松建設取締役就任
2014年4月 髙松建設代表取締役副社長就任
2015年4月 代表取締役副社長 執行役員就任
2018年4月 髙松建設代表取締役社長(現任)
ビジネスポリシー ~企業として大事にしていること
全てに堅実であること
現在、私で6代目の社長になりますが、昨年100周年を迎えました。その間、脈々と受け継がれているものとして、企業理念にもある『経営目標達成の為、よりビッグでよりハイプロフィットなカンパニーを目指す。ただし、不正や不当な手段による社益の追及は勿論、浮利を追うなど利益第一主義に陥ってはならない』という企業姿勢で経営をしており、当社は適正利益で身の丈に合った事業を行っています。また弊社は多角経営というものもやっておらず、現在20社ほどのグループ会社がありますが、業務に関係のある不動産管理会社以外は、ほぼ建築技術系の会社です。
元々グループ内にある髙松エステートという会社は髙松建設が建設した賃貸マンションの管理会社ですので、売買も時折ありますがメインではなく、建築に付随したビジネスバックアップの為の会社です。弊社はあくまで「建築業」であるというところが貫かれており、またそこでも堅実であるという点が当社の指針です。
大事にしている事
髙松建設成長の起爆剤になったのは「提案型営業」でした。
今から40年以上前、その頃の工事台帳を見ますと大手ゼネコンさんの名前やハウスメーカーさんの名前が連なっており、これが意味するものは「下請け」です。下請けというのは請けた仕事を確実に着実に元請けの会社の図面通りに施工するというもので、そこには提案という幅が非常に少なく、利幅も大きくありません。
実際に仕事をしていると、やはり「元請け」の方は利幅が取りやすい訳です。やはり「イニシアティブを取る」「収益性を上げよう」と考えると、「独自性」や「提案力」というものを発揮しない事には得られない、というのは徐々に解った事ではあります。
そして40年ほど前から徐々に脱皮いたしました。その時のきっかけになったのが「提案型営業」であり、現在も引き続き行っている「土地の有効活用」のご提案。これが収益力の源になっています。
三代目の社長が就任をしていた当時、私がまだ高校生の頃ですが、『うちはソフト提案力が売りだ。』と聞きました。今で言う「ソリューション営業」です。「提案型営業」というのは現在では当たり前になっていますが、40年以上前に建設業でそれを前面に出しているのは極めて少なかったので、やはり同業他社の方々には、非常に厳しいご意見をいただきました。
「建築屋は建築をしているべきだ」「図面通りの精度の高い建築をするのが建築屋の役割で、提案なんておこがましい」と。今は土地の有効活用の提案型営業というのは弊社がパイオニアだと自負していますが、同様にされている企業も沢山あります。
今は民営化されて名前は変わり、住宅金融支援機構となりましたが、その頃、我々が「制度融資」と呼んでいた住宅金融公庫が行っている低金利の融資がありました。技術水準や規定、書類作成などの点で細かい部分がある為、面倒な手間を敬遠し、あまり使われていませんでした。
世の中には「良いけれどあまり使われない制度」がありますが、その内の一つでしょうか。
そこに着眼し、お客様にとって煩雑な部分を我々が代行すると、お客様は非常に喜んで下さいます。
当時の提案は「農地や空き地、駐車場という場所をマンションにする」といった提案がメインでしたが、最近では都市部での建替え需要が非常に増えてきています。
例えば駅前の建物ですと、当然下のフロアに商業系店舗、または保育園などの住宅以外のコンビネーションも増えています。場所によっては、建物の全体を商業ビルにしてもいいのではないか、あるいはホテルを誘致するなど、規模や立地によって様々に組合せができます。
賃貸マンション1本の営業から、コンビネーション型の提案へ移行してきていますが「提案」としてはより充実した内容で、当社の中で生き続けています。
営業の方法としては、「良いものを提供する」という自信があるが故に、「お仕事をください」という営業を必要としていません。『良い提案』をして、それを『お客様に選んでいただく』という事が使命であり、流儀であると考えています。
価格勝負という点に置いては、我々よりも常に安い会社もあり、低価格がご馳走というお客様もいらっしゃいますので、そういった方にも選んでいただけるような品揃えやパッケージの開発も考えています。
弊社では「開発営業」、平たく表現すると「飛び込み営業」を主体とし、有効活用の提案促進をしています。TVでCMもしており、不特定多数の方に名前を知っていただくことも大切ではありますが、実際には顧客ターゲットの少ない、狭いレンジで営業をしています。
飛び込み営業をやっていくと、ややもすると押し売りとも取られかねませんので、なかなか話を聞いてもらえません。
しかし話を聞いてもらえた時点で他社がいないので、競合がいない状態を作ることができます。社員には、「話をしてくれる人より、話をしてくれない人のところにいけ」と言っています。まず、「聞いてもらえない」という大きな壁を突破すると、その先にはブルーオーシャンが待っています。信頼関係の構築からスタートをするので、お客様にとって収益性の高い事業のご提案をし、信頼のもとにスタートができると、結果として相見積もりや値引き要求もなく、安心してご依頼いただけます。
弊社は「建築」でいただく、お客様には「事業の収益」を得ていただく。お互いパートナーとなり、上手に関係が構築できればwin-winの気持ちの良いお仕事ができます。
求める人材像
責任感のある人は成長する
技術系の新卒者採用は継続的に続けていますが、営業については、かつては”中途伝説”というものがあり、別の会社での経験を活かして、即戦力になってくれる中途こそが優れているというような風潮がありました。
新卒に少し目を向けてみた時期もありましたが、ここ20~30年は中途採用を主体としてきました。直近で、入社してから3年間の個別データを取ってみると、実は中途採用者と新卒採用者に差はない、という事がわかってきたので、この3年前からまた新卒採用を非常に積極的にしています。
新卒者もしっかりと受注をしてくれています。これにはいくつかの理由があると考えており、上場を経て以前よりもいい人が来てくれるようになったという事、また採用部隊の能力も上がりいい人材を確保する眼力がついてきた部分もあるかと思いますし、教育及び管理体制も以前に比べると良くなっていると考えています。過去には「行って来い」「売ってこい」というような時代があったかと思いますが、今はコミュニケーションを密に取り、非常に丁寧に教える事をしています。中途採用に関しては人によりますが、即戦力でしっかり成果を出してくれる人材もいれば、中には社会を少し知ってこなれてしまい、変な癖がついてしまっているような人材もいるので、社内教育が必要です。
営業で良い成績を上げる人というのは”素直な人”だと私は思います。
色々と考えすぎず、気持ちを先走らせすぎず、まずは先輩や上司の指示を素直に行動し、その後に成長のステージに応じた自分の役割、能力を理解してきちんとできる人。
髙松建設全体としての部門は、大きく分けて営業・設計・施工の3つに別れます。従業員が100人未満の時代には、主要な幹部社員は営業も設計も工事も、全て理解していました。しかし、これだけの規模になってくると、全てをローテーションした経験者はほぼおらず、一気通貫して全部理解している経験者というのはそうはいません。
私自身、表面的にはなってしまいますが、それなりに見てきた中で、共通して重要だと思う事はただ1つ《責任感》です。《責任感》がある人は多少、能力として弱い部分があったとしても、努力をして必ず目標を達成します。
推奨はしませんが、少し仕事が残ってしまったら自らの判断で終わるまでやったり、誰にも何も言われずとも、自分の責任の中でやります。わからないことがあれば人に聞く、あるいはどこかに尋ねに行く事ができる人間と、「できませんでした」と言える人には雲泥の差があります。
責任感のある人はいずれ出世した際に部下の責任も持ち、それに伴い部下もその人についていく気持ちにもなり、その人を見て成長してくれます。
私が求める人材は《責任感の強い人》です。こういう人は、どこで仕事をしてもやっていける人でしょう。
頭の良さともまた違う、『自分から逃げない』ということはなかなか学べることではないように思います。それはカリキュラム化する事は難しく、背中を見せるしか無いというところでしょうか。
人材を育てるプログラム
退職者を出さない組織作りを目指す
現在、建設業界は現場の職人さん、施工管理者が業界全体として非常に不足しています。原因はいくつかあり、非常に過酷な労働環境もそのうちの一つの理由です。
昔から言う3K(きつい・汚い・危険)です。現場は整頓されているので皆さんのイメージよりは汚さはなく綺麗なのですが、多少汚れますし、きつさはやはりあるように思います。私も現場に行くと1時間程度でも沢山汗はかきますし、危険は付き物で、大変な仕事だと思います。今、国土交通省や、厚労省、各行政が働き方改革と唱えていますが、他業界に比べて働き方の点で遅れているのが建設業界でもあります。日本建設業連合会さんが2020年までに4週8休という計画を謳っていますが、これは日本中の工事現場が4週8休できていないという事です。大型建築において10ヶ月を超える工期でその4週8休を実行すると月に4日工事が止まり、10ヶ月で40日間という日程の調整が必要になります。つまり1か月以上、工期が延びる結果になるのですが、それをどの様に吸収していくか。これは大きな問題です。
人財開発方針と言えるかはわかりませんが、このような状況から人が辞めてしまうので、当社では改めて、人材教育に注力しようとしています。
昨年から全部署内で、スキルの洗い出しをしており、バラバラにやっていた研修を全て、体系化し、人事評価とリンクさせ、よりフェアな評価基準を根拠にしていこうという動きを急ピッチで進めています。
私は個人的に子会社の社長時代から、退職者を出さない組織作りを志しています。
良し悪しはわかりませんが、私が子供の頃のように日本企業の終身雇用・年功序列といった日本がもっと未来を夢見ることができた頃、真面目に歩いていれば、高望みさえしなければ、ほのぼのと生活をできるような体制があったと思います。何年かに一度は父親が家に新しい物を買ってきたり・・・。そのような時代も悪くなかったのではないでしょうか。私は社長として、安定した暮らしを提供できる職場環境を作っていきたいと考えています。
「天才は生み出せない」と私は、思っています。過去にスーパー営業マンを見出したりしてきましたが「これは天才だ」と思う人は、必ず自然発生します。教えた事もやっているとは思いますが、この類の人は教えてない事も必ずしています。多くのマネジメントに携わる人間は天才を可愛がりますが、天才の発生は奇跡なので、どんなに注力しても二度と発生しません。
私は、ホームランは打たなくてもいいが、2塁打を確実に売ってくれる人間を確保しておく事に時間を割くべきだと思っています。
天才は自分の中で動機を明確に持って、本能かのように勝手に踊ります。それよりは「踊りたがらない人間を如何に踊るようにするか」に、力を注ぐ方が組織として全体のボトムアップになり、とても意義深い事だと考えます。
私は持論として、ほとんどの事はデジタル化できると思っており、設計・技術というよりは芸術に近い感覚を持った人間、プライドを持った人間は、すぐに「表現できない」と言います。安藤忠雄さんクラスの天才になると話は別ですが。基本的には何かの真似の中から様々な物ができていると考えています。「学ぶ」という言葉は「真似る」から来ていると言いますが、言葉にしても学んで、真似て習得していきます。やはり様々なものがイミテーション&コピーからできており、組み合わせにすぎないと考えると、ほとんどの事がデジタル化できるという事になります。
人間の思考の範囲で何か一つの事柄について箇条書きで書き出してみると、だいたい20程度しか書けないはずです。例えばカレーライスが好きな理由を書き出すとすると、おそらく100種類の理由を書けないと思います。どんな好きな理由でも何かに当てはまると思います。業務思考もコンピューターを使用すれば人間は必要なくなるのかもしれません。
しかし、教育でも全く同じ事が言えますが、そこに組み合わせが入ってくるので、非常に複雑になってしまいます。
掛け算になった時にアナログな人間の思考で伝達していこうとすると、10人のお客様がいて10人の営業がいるとすると100パターンの相性があり、営業トークというような通り一変のものが通用するとは限りません。
相手がいて、こちらの営業がいて、どれを選ぶか、そこで新しく選ぶ要素が出てくるので、3桁の掛け算になり、10×10×10の計算は大変な作業になってきます。そういう意味で、設計や施工管理は機械化がいち早くできたとしても、営業という仕事は、最後の最後まで人の力を頼らざるを得ないでしょう。
私自信も営業出身の人間なので、営業は非常に奥が深く面白いと思います。アクロバティックな経験を誰しもがするので、同じ事は二度と出来ないだろうなと思います。
これまでは、例えば他社で人事部長を経験してきた人に対して、現場を見に行かせていませんでした。やはりそれはよくないのではないかという事で、最近は中途採用の管理職で本社配属の、建築会社でありながら直接建築に関わらない部門へ配属の人達に、「建築業の現場では何をやっているか」の研修をしています。
また、現場経験者は、専門的な広告や、人事、財務の仕事に就いた場合、経験もなく管理職になるのは時間がかかります。
財務はまだしも広告や人事となると、一種M&A的発想ですが、外から来てもらった方が早いのです。過去に「少々酷くないか」と思う程、一度に沢山の人が入社し過ぎた事がありました。それに伴い「現場を知らない素人に、広告をやらせるのはどうか」という声が上がりました。確かに弊社の仕事を解ってないのは如何なものかと言う事で、現場を見に行ってもらったり、営業はどのような仕事をしているのかを知る為に営業検討会に同席してもらい、具体的で細かな仕事の内容を聞いてもらい、理解をしてもらう。
『髙松建設の仕事を教える』という機会を作り、その研修の補強もしています。
”弊社がどのような事業をしているのか”という事に、プライドを持ってもらいたい。
例え、専門分野の仕事をする人にでも、知ってもらう事は重要であると考えます。
ビジネスパーソンに一言
逆算の論理で人生設計を
これからどんどん幹部として歩もうとする人に対して、よく言うことですが「逆算の論理で人生設計をきっちりやっていただきたい。」
私自身もしっかりとした人生設計を歩んできた訳ではないので、自慢できる程の事ではありませんが。中途で入社してちょうど20年経ち、その内の4年間副社長をしていたので、この日が来るのはだいたい予想はできていました。
自分なりに遅かったのか早かったのか、ふと振り返る機会があったのですが、「まぁまぁかな」と思います。実年齢や健康年齢も考え、後20年同じペースで走り続ける事はできないと思いますが。ただ、いつまでにどこへたどり着くのか、何をするのかの目的をキチンと決めて逆算をして、時には折れたり、挫折したりする経験もあるかと思いますが、軌道修正しながら歩んでいただきたい。
もっと若い世代に言うことは、「言われた通りにやるのが、アマチュア。プロは自分で、目的を明確に設定してやる。」
20代中頃に自分自身が営業をやっていた頃はそれをわからずにいて、短期的な目標はあるのですが、その積み重なる先に自分は何を目指しているのか?は自分で見えていませんでした。後になって思う事は、『自分に中長期的な目標が欠けていた』という事でした。
[何のためにこれをしているのか] [いつまでにどうなりたいのか] その想いが無いから、なんとなく日々の営業成績に追われるだけだった様に思います。ですのでモチベーションを自ら設定して、何の為にそれをやるのか、どこにたどり着きたいのか、何が欲しい、何が得たいのかを決めて、逆算して進む事を勧めます。これは色んなところで実際に言われている事で、多方面で啓蒙されていて、私が見出したものではありませんが。それを何年かに一度棚卸しをしながら、自分の心に深く刻むことによって、折れたら休めばいい、少し踊り場で休む時期があってもいい、また走り出す。それをきちんと明確に決めてやれば、きっと素晴らしい能力を発揮する機会に恵まれるのではないでしょうか。
そして1つだけ言える事は、【自分が自ら望んだもの以上の物は、手に入らない】という事です。例えば、私が総理大臣になりたいと思ってないのに、気づいたら総理大臣になっているという事はありません。やはり、私は強く「社長になる」という事を望んで歩いてきました。
強く心に刻んだ目的意識を持って、逆算の発想で計画を持って、無理のないスケジュールで人生を楽しく、ビジネスパーソンとしてエンジョイしていただけたらいいのではないかと思います。
■取材チームからの一言
100年を迎える企業は日本全国で3万社強。その中でも上場企業となると564社、全上場企業3,647社の15.4%です。
昨年100周年を迎えた髙松コンストラクショングループ内には、日本最古(578年創業)の金剛組もあり、『浮利を追わない』『建築業に集中』というポリシーが連綿と受け継がれてきています。
一方で、最近は関東や他のエリアでもブランド力を高めるために媒体広告も増やしていて、都内・近郊でも建設中のビルに『髙松建設』のグリーンとホワイトの看板を見る機会も多くなりました。
起業からの10年生存率が5%と言われる(諸説ありますが)中、堅実な経営で成長している理由の一端に触れられたように思います。
髙松社長は今年4月に、創業家6代目の社長として46歳(就任当時)のまさに最適な年齢で社長に就任されました。
関西の血なのか、人の気をそらさないサービス精神の塊のような髙松社長。
「常にアンテナを張り巡らせ、柔軟な発想で物事を捉える」(秘書談)髙松社長の下、人材教育にもより注力しつつ、次のマイルストーンに向けて邁進されると確信いたしました。