サントリー食品インターナショナル株式会社
執行役員 管理本部副本部長 人事部長
澄川 潤一 氏

サントリー食品インターナショナル株式会社執行役員 管理本部副本部長 人事部長 澄川潤一氏

サントリー食品インターナショナル株式会社
執行役員 管理本部副本部長 人事部長
澄川 潤一 氏

澄川 潤一(すみかわ じゅんいち)氏

1981年 サントリー株式会社入社
経理部門・人事部門・酒類営業部門を経て
2010年 同 人事部長
2013年 サントリー食品インターナショナル株式会社
執行役員 管理本部副本部長 兼 人事部長

サントリーグループは赤玉ポートワイン(現:赤玉スイートワイン)に始まり、日本に洋酒の文化を創ってきました。上質でありながらユニークなサントリーの商品は、国内にとどまらず、今では海外でも高い評価を受けています。
常に時代の変化を先取りし、消費者のニーズに応え、ユニークな商品を提案し続けるという姿勢は、サントリーのDNAとも言える「やってみなはれ」の精神が社員ひとりひとりに浸透しているからではないでしょうか。
サントリー食品インターナショナル人事トップの澄川執行役員に、グローバル・リーディングカンパニーならではの強い信念・高い志を語っていただきました。

ビジネスポリシー ~企業として大事にしていること

「やってみなはれ」 ~新しい価値創造に向かう信念と覚悟を後押しする

サントリーの商品
サントリーの商品

創業者である鳥井信治郎の口癖、「やってみなはれ」が弊社の精神を最も端的に表しています。
サントリーグループは赤玉ポートワイン(現:赤玉スイートワイン)に始まり、日本に洋酒の文化を創ってきました。「やってみなはれ」はこのフロンティアスピリットを示したものです。
グループの中でも、弊社(サントリー食品インターナショナル)のグローバル化がもっとも進んでいるといえます。今回、サントリーホールディングスによるアメリカのビーム社の買収によって、酒類事業のグローバル化も急速に進み、グループ全体として、これからますます真のグローバル企業を目指していくことになるでしょう。
グローバルになるということは、国籍も価値観も異なる、多様な人財がより多く集まるということです。それゆえに、「やってみなはれ」は、グループ全体に通底する創業の精神として、グループ全体への浸透が図られています。
弊社もグループの一員として、この「やってみなはれ」をビジネスにおける共通の軸として掲げています。
実際に「やってみなはれ」は、社内の日常的な会話の中でも使われています。トップダウンのお題目ではなく、このように現場レベルで実働・実践されているということは大変良いことだと思っています。
「やってみなはれ」は、関西弁の軽妙な響きとも相まって、口にしやすい言葉であるのかもしれません。
ところが、この言葉の本当の意味は深いのです。軽く「やってみなはれ」というと、思いついたことはあまり深く考えず、自由にやってみたら・・・ぐらいの意味で理解されているかもしれません。
しかし、日本では根付かないと反対され、しかも商品として出荷できるまでに長い年月がかかるウイスキー事業に取り組んだ鳥井信治郎の言葉であることを考えると、自身が命をかけてやってみたいと思ったことは、綿密な計画を立て、どのような苦境においても諦めずにやり抜きなさいという意味なのです。
「やってみなはれ」は、新しい価値を生み出そうとする高い志を称えつつ、困難に立ち向かいゴールを目指して歩き出すその背中を強く押す言葉です。

人気のプレミアムモルツ
人気のプレミアムモルツ

ウイスキーではトップブランドのサントリーですが、1963年に二代目の佐治敬三がスタートしたビール事業では、赤字続きで長年苦戦を強いられていました。以降、なんと言われようと諦めずに挑戦し続け、ようやく2008年に45年間ずっと赤字だったビール事業は初めて黒字になりました。
これが本当の「やってみなはれ」なので

利益三分主義 ~「陰徳」の時代から続く社会への貢献

世界の一流演奏家が集うサントリーホール
世界の一流演奏家が集うサントリーホール

私たちはビジネスをしていますので、お客様と弊社で利益を分け合うのは当然です。
これに加えて、もうひとつ、「社会」にも利益を還元しようというのがサントリーグループが掲げる「利益三分主義」です。「利他の心」とも表現しています。
弊社グループトップはオーナー企業であるがゆえに、ステークホルダーからの意向に必要以上に振り回されることなく、より良い社会に向けた積極的な活動を創業当時から行ってきました。
このような活動は、最近ではCSRとして対外的にピーアールされることが多くなってきましたが、かつては「陰徳」と呼ばれ、表に出さないことが美徳とされていた時代もあります。弊社グループではそのような時期から、地道にかつ継続的に社会との共生を目指してきました。
サントリーホール、サントリー美術館は有名ですが、そのほかにも社会福祉活動、東日本大震災の復興支援、スポーツ・文化活動支援等を数多く行っています。

自然との共生 ~商品への感謝と将来の財産を育み、守る

森や水の研究
森や水の研究

社会との共生と同時に、「人と自然と響き合う」という弊社の理念にもあるように、自然との共生も大事なビジネスポリシーです。
弊社の商品は、すべて自然の恵みから出来ています。この自然に対する感謝の気持ちと、将来の環境に対する貢献活動にも、積極的に取り組んでいます。

社是 ~私の好きな言葉

「やってみなはれ」のように広く認知はされていませんが、1973年に制定された社是があります。
当時、多くの社員にアイディアを募って作成したものです。
この社是が大変良い言葉で私は大好きです。

人間の生命の輝きをめざし
若者の勇気に満ちて
価値のフロンティアに挑戦しよう
日日あらたな心
グローバルな探索
積極果敢な行動

前半三行が、弊社グループの存在価値を、後半三行が社員としての行動規範を示したものです。
瑞々しい感性があふれる、明るく前向きな表現が気に入っています。また、40年以上も前からすでに「グローバル」を標榜していたことには驚かされますね。

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求める人財像

求める人財像

速くて激しい変化を楽しめる人

私がサントリーに入社してから30年が経ちました。振り返ると、入社してからの十数年と、ここ1、2年では、最近の方が、比べものにならないほど社会の状況、ビジネスの環境が激しく変化していると感じています。
今後、マーケットのグローバル化が進み、さらに技術が高度化していけば、ますます変化のスピードは速く、振れ幅も激しくなっていくでしょう。このような状況をネガティブにとらえずに、むしろ「楽しめる」ような人がいいですね。

グローバリスト

食品事業の弊社は、すでに売上の4割近く、利益では半分以上が海外のマーケットからになっています。
サントリーグループの中核企業としてグローバル化をリードしている弊社には、グローバル人財は必須です。

多様な価値観の受容

グローバル人財の要素として、多様な価値観を受容できるスタンスが重要です。
頑固であることはOKですが、頑固でも仕事のデキる人は、人の話にきちんと耳を傾けています。自分が思考する過程でさまざまな人の話を聞き、その上で決めたことに関しては、ぶれない信念を持つ頑固モノであれば、歓迎します。

明るさとオープンマインド

明るさといっても、いつもおちゃらけていたり、笑顔を絶やさないでいたりしなければならないということではありません。ここで求める「明るさ」とは、物事を常に前向きに考えられる思考を持った人のことです。
加えて「オープンマインド」は、先に述べた多様な価値観を受け入れる心のあり方として、非常に重要な要素です。

フロンティアスピリッツ

繰り返しますが、「やってみなはれ」の精神は、弊社グループに流れる共通の大事な軸です。

ここまで複数の人財像を挙げてみましたが、人事としてはいかに多様な人財を採用するかということが大事ではないかと、最近では考えています。
そうであれば、一方で、こういった人財像でなければならないということを、かっちりと決めない方が良いかもしれないと思っています。

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人財開発方針

人財開発方針

キャリア自立/自律 ~自分のキャリアは自分がつくる

営業部門若手社員への研修
営業部門若手社員への研修

弊社の人財開発方針は、「自らを変革・成長させていける強い個を育て、その成長を後押しする」です。
また、サントリーグループとしては、「一人一人がキャリアオーナー」という言葉を掲げています。
このように、数年前から『キャリア自立/自律』をメッセージとして打ち出し、それに沿ったプログラムを企画・実施しています。
「自身の能力開発は会社の教育プログラム任せ」というこれまでのスタンスから、自分のキャリアは自身で考え、自ら主体的に能力開花の努力をして欲しいと考えています。そのための後押しをするのが、会社の役割です。
弊社には海外の人財もたくさんいますが、彼らは私たち日本人に比べて「mature(成熟)」な人が多いと感じています。自立した考え方を持った人が多いのです。彼らと話していると、私たちの浅薄さや近視眼的なものの見方に気づかされます。
就職したら会社が自分の人生を丸抱えしてくれる時代から、状況は変わりました。人財開発においても、このような環境の変化に対応していく必要があると考えています。

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ユニークな人財開発プログラム

ユニークな人財開発プログラム

キャリアチャレンジ ~グローバル人財の育成とキャリア自立/自律の両立

8年ほど前からスタートしたプログラムで、社内公募に近い制度です。
社内公募と違うのは、本人の希望を受けて、そのまま配置転換するのではなく、会社と本人が現在のスキルセットについて棚卸しをし、希望するフィールドへ異動するために足りない能力について育成プログラムを両者で策定します。そして、現在の業務と両立させながら1年間のプログラムを修了したところで試験を受け、合格すれば希望のポジションに異動できるというものです。
異動の際の合格率は高いのですが、このプログラムは思うほど容易なものではありません。通常の業務と並行しながら、プログラムを1年間継続するということは、結構大変なことですから、その本気度が合格率を引き上げているのだと思います。
対象は、入社後2ローテーション程度を経た中堅スタッフが対象で、毎年、年間10人ほどがエントリーしています。

海外トレーニー ~若いうちに海外経験を

インドネシアでトレーニー中の若手社員
インドネシアでトレーニー中の若手社員

若手を中心に、1年間、海外のグループ会社や企業・団体に派遣し、早期にグローバルで活躍できる人財を育成する制度です。
こちらも年間10名ほどのエントリーがあります。
先の「キャリアチャレンジ」と「海外トレーニー」をあわせて、「グロバールチャレンジ制度」と呼んでいます。

KEYプロジェクト ~ノリでスタートした草の根活動が成果を上げる

「グローバルチャレンジ制度」が、どちらかといえば会社の経営戦略と個人のキャリア自立/自律をリンクさせた制度だとすれば、一方では、現場発による草の根的な活動もあります。
京橋のオフィスに勤める若手リーダーが集まり、自分のチームの英語力を向上させるにはどうしたらよいかを定期的に集まって討議しています。
討議だけではなく、実際にスタート時点で各自のTOEICスコアを図っておき、後でどれだけアップしたかをチーム間で競うようにしました。
リーダーたちは、ミーティングの場で情報共有を図ると同時に、どのように参加メンバーのモチベーションと英語力をアップさせていくのか、アイディアを出し合います。
実際に、リーダーが中心となってプロジェクト啓発のためのパンフレットを作りました。これが、本当に良く出来ているんです。
両面になっていて、一方から読むと、プロジェクトの趣旨や目的、活動内容などが真面目に書いてあるのですが、反対側から読むと、スポーツ新聞ばりのおちゃらけテイストになっています。”彼女を落とせるこれが本当の口説き文句だ!!”なんていうふうに見出しをつけたりして・・・。ご丁寧に、真ん中には袋とじもついていて、ドキドキしながらハサミを入れるという演出つきです。これは大好評でした。
また、各チームでも独自の英語力アップ策を実施しています。
メンバー内で英語のチェーンメールを送り合うとか、毎朝、英単語を10個ずつテストするとか、英語ランチをするとか、全員で字幕吹き替えなしの洋画を見に行くとか、英語の講師を呼んでレッスンするとか、それぞれに知恵を絞っているようです。

KEYプロジェクトの様子
KEYプロジェクトの様子

この話を聞いたとき、草の根的な活動ではあまり成果が出ないのではないかと心配していました。
グローバル企業を目指す他社には、英語を公用語にして、強制的な教育を行ったりしているところもあります。ところが、強制でなくても、弊社ではこのプロジェクトで平均70点以上もTOEICスコアがアップしました。
リーダー・参加メンバーのノリも良かったし、自由な発想でパンフレットを作ったり、チーム間の競争を取り入れてみたりと、仕掛けもよかったのだと思います。
このような活動が、これから各地に広まっていけば良いなと思っています。
そうそう、このプロジェクトの名称は、「KEYプロジェクト」といいます。
K(京橋)・E(英語)・Y(やってみなはれ)・・・「京橋英語やってみなはれプロジェクト」です。英語力向上プロジェクトの名称が、あえて日本語の頭文字をとっているのもいいセンスでしょう。このあたりにも弊社のノリの良さが現れていますね。

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若いビジネスパーソンへのアドバイス

若いビジネスパーソンへのアドバイス

自らの進む道に、自ら明かりを見つけよう

先ほどから繰り返してお話していることですが、今は、変化が早く激しく、不確実な未来に対して、過去の経験が活かせない時代になってきています。
このような見えない先にも明かりを見つけて、自らを鼓舞できる人、目標を定めてそれに向けた努力が出来る人になって欲しいと思います。
私たちの若いころは、のほほんとしていても何とかやっていける時代でした。同時に、明日は今日より必ず良くなるという思いがあったため、社会全体にもっと勢いがあり、熱を帯びていた人が多かったような気がします。そのような時代が良かったという訳ではありませんが、今は当時のような明るさや元気がなくなってきています。
先が見えない時代だからこそ、目先だけ、足元だけをしっかりやっていても駄目なのです。
自分で自分の進む先を決めて、そこに向かって歩みを進めていくことが求められていると思います。
これが「キャリア自立」そのものではないでしょうか。

■取材チームからの一言

サントリー食品は、昨年7月にサントリーグループの中核企業として、東証一部上場を果たしました。それに先立ち、ちょうど今から一年前に、京橋エリアの再開発のひとつである東京スクエアガーデンにオフィスを移転しています。
新しいオフィスは、サントリーのコーポレートカラーである水色を貴重にした爽やかで明るいデザインになっています。
このように企業全体から各商品にいたるまで、サントリーのブランディング力の高さは良く知られているところですが、外から見たとき、真の「やってみなはれ」の精神を理解している人は少ないのではないでしょうか。新しい価値を生み出すためには、思いついたことをやり散らかすのではなく、強い信念と覚悟によって成果が出るまでやり抜く骨太の精神が大事なのです。
一方で、ユニークなプログラムでご紹介いただいた「KEYプロジェクト」の社員発のノリの良さもまた、サントリーグループ、サントリー食品インターナショナルの社風を表していると思います。お酒や食品は、自然の恵みを受けて商品となり、私たちの口に入って幸福・口福をもたらすもの。そこにたずさわる社員の明るく元気なエネルギーが、商品づくりにも反映されているのだと思います。

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