国分株式会社
常務取締役 経営統括本部副本部長 兼 業務本部長
清水 宣和 氏
清水 宣和(しみず よしかず)氏
昭和51年3月早稲田大学社会科学部卒業。
同年4月国分株式会社入社。
平成15年3月九州支社部長、
平成17年3月取締役管理本部部長、
平成21年3月常務取締役経営統括本部部長を経て、現在に至る。
趣味はゴルフ。
今年創業300年を迎えた国分株式会社は、取引一つひとつに丁寧に取り組むと同時に、従来の問屋の枠を超えた積極的な事業領域の拡大を目指します。
「人」と「人」とを繋ぐ問屋として、人財開発は極めて重要なテーマとなります。
業務部門の責任者を務める清水宣和常務に、商いが300年続く理由の一つでもある人財観についてお話を伺いました。
ビジネスポリシー ~企業として大事にしていること
創業300周年 「信用」は一日一日の積み重ね これからも守り抜くために・・・
国分は創業以来、「式目」という社員の行動規範を定めた文書があります。
この式目は、これまで、時代に合わせ4回書き改められ、現在は「平成の帳目」がその精神を受け継いでいます。
このような理念・規範は、文章にして終わりではなく、行動として実践することが重要です。
そこで、社員は全員この「平成の帳目」を常に携行し、各部署での朝礼でも話をするなど、日常的に浸透しています。
国分の社是でもあり、「平成の帳目」のまず1番に掲げられているのが、「信用」です。 当社は、今年創業300年を迎えましたが、信用とはある日突然生まれるものではなく、これまで私達の先人・先輩方が、一日一日の商売を大切にし、永い間かけてここまで積み上げてきたものです。
しかし、信用を失うのは一瞬です。
私は、常に「良い話は後でもいいから、悪い話を先にするように」と言っています。
組織が大きくなってくると、何かよくないことが起きた場合に、責任の所在を明確にするという名の下に犯人探しが始まることがあります。
私は、”誰が”ということではなくて、”本質的な原因”を追究し、組織として再発を防ぐ、あるいは組織的に未然予防することが、これからも「信用」を守り続けていくために重要なことだと考えています。
求める人財像
「人間的魅力」と同時に「気概」のある人
一般的に求めらる人財像として「明るく元気で、やる気を持った前向きな人」というのは、当社も同様です。
これに加えて、当社は食品卸売業(問屋)として「人」と「人」とを繋ぐのがビジネスですから、人が好きで好きでたまらない人を求めています。
語学力や資格などのスキルはあるに越したことがありませんが、これはポケットの中に忍ばせておく武器で、必要な時に取り出して使えばよいのです。 「人が好き」というのは、逆に言えば「人に好かれる」人です。
このベースとしては家族や友達の影響が非常に大きいと思いますが、特に、就職においては大学でどういうことをやってきたのかということが重要だと思っています。
大学でどのような人達と交わり、どのような考えで、何をしてきたか-これはアルバイトでもボランティアでも、ゼミ活動でも、どんなことでも構いませんが、大事なのはその人が挫折したときにどのようにそれを乗り越えてきたかです。
ここにその人の「人となり」の本質が出てくると思っています。 当社の社員は、昔から大変「人柄が良い」ということを言われてきました。
だだし、これからは、「人柄」だけではビジネスは成り立たないと思います。
採用の際には、「この人は自分たちの仲間として欲しい人財か」という視点でみていますが、仲間=チームワークというのは、一人一人の強さがなければ成り立ちません。
チームワークの強さは、個の強さが前提となっているのです。
ですから、当社では、人柄の良さに加え、個の強さを持った「気概のある」「芯のある」人を求めています。
人財開発方針
「働きやすい職場」から「働きがいのある職場」へ
特にここ3~4年は、求める人財像で申し上げた「気概」のある人財が入社してきています。
このような人財がこれからも毎年毎年入社してくることによって当社組織の中で徐々に層を成してくれば、上司や管理職を良い意味で”突き上げる”存在になってきます。
これは、組織全体への影響としても良い効果だと考えています。
社員にとって「働きやすい環境」は快適かもしれませんが、当社はその先の「働きがいのある環境」を目指しています。
日常の業務以外でも、気概のある人財はどんどん手を挙げたり、発言したり出来る場を設けています。
ユニークな人財開発プログラム ~新たな気付きの場として
30代が自由に発言できる「サンマル会」 ~新たな気付きの場として
営業管掌と業務管掌(私)の2名の常務で、全国の30代社員全員を対象に、1回10名程度ずつ約2時間「サンマル会」というフリーミーティングを実施しています。 私の発案で7、8年前からスタートし、これまで180回実施、延べ2,500人が参加しました。 フリーミーティングでは、普段自分が考えていること、会社に聞きたいこと、自分がこれからやりたいことなどを自由に話してもらいます。
参加者には、事前に自己紹介、会社と自分の将来像、会社に聞きたいことなどのアンケートに答えてもらい、メンバー全員に共有します。 参加者は、営業や経理や物流など様々な職種から参加しているため、普段の自分の業務範囲からは見えてこないものが見え、新たな気付きや意欲につながっています。
例えば、実際、日常の経理業務は照合や計数管理的な仕事が多く、ルーチンワーク化も含めて閉塞感を感じていた社員が、営業職の話や物流部門の話を聞くことによって自分の業務を俯瞰することが出来、相対的に会社の中での自分の立ち位置=役割を理解することで、明日からの業務への意欲と組織の中で価値を生む仕事のあり方を考えるきっかけになったというケースもあります。 ミーティングは議事録をとり、社員から挙げられた「会社に聞きたいこと」に対しては、一つ一つきちんと回答しています。
また、参加者には感想文を提出してもらい、議事録と合せてこれもメンバー全員と経営トップまで共有しています。
当初、30代の参加者の上司(部長)などは、この試みに少なからず抵抗を示していました。
部下が、直接常務に対して自分の悪口を言う場ではないかと思ったようですね。
勿論「サンマル会」はそのような場ではありませんが、良い意味で彼らの上司達も日常的に部下との関係を意識するようになり、今では管理職の理解を含めて、社内に浸透するまでになりました。
まさに”継続は力なり”です。
スタートから10回くらいまでは、私一人で司会もやり、議事録も書き、会社に聞きたいことの中ですぐに答えられなかったことは後で調べて回答するということを全部やっていました。
社内に浸透した今では、人事総務部が運営をしてくれています。
ミーティングの後は社外で飲み会もあり、これがまた大変盛り上がるんですよ。
海外チャレンジャー制度 ~自ら手を挙げることを評価する
当社は、長く国内のビジネスを中心としてきたため、海外進出に対する実績やノウハウがあまりありませんでした。
そこで、海外に関しては、会社が社員を指名するのではく、経験ややる気のある人財が自ら手を挙げるという「海外チャレンジャー制度」を2007年からスタートさせました。 イントラネットで年に2~3回アナウンスし、公募します。
応募の際は、上司を通す必要はありません。
社内選考で1回につき3~5人程度選抜され、基本的には3ヶ月海外に行ってもらいます。 会社は、渡航費など経費の負担と安全は確保しますが、渡航手続きからプランニング、現地での衣食住や実際の業務まで全部一人でやることになっています。
会社としては、3ヶ月の期間に対し、すぐに成果は求めないと言っています。
また、3ヶ月経って帰国したら元の部署に戻るのですが、その間の抜けた本人の業務は管理職が何とか組織をやり繰りして支障が出ないようにしてくれています。
海外チャレンジャー制度の初回メンバーは、女性2名でした。
アメリカで商品開発をやりたいとのことで、自分達で渡航手続きをし、ワイナリーを回り、先に進出している日系企業なども回ったようです。
そして、わずか3ヶ月のうちに百数十種類の商品を見つけて帰ってきました。
帰国後の社内検討会で数種類に絞られた商品の中から、最終的にブラウニーが商品化として選ばれました。
実は、ブラウニーは売れないだろうとのことで、私も含め社内的には消極的な声もありました。
しかし、彼女達の「どうしてもこのブラウニーを売りたい!」という強い想いを受け、私がその気概に乗って「わかった、業務本部で1コンテナ買うよ」ということにしたのです。
輸入が決まってから、彼女達は自分で調べて初めての通関手続きをし、商談には営業に同行して自ら商品の説明をし、商品が到着した日には実際に港に行って荷姿の確認までしていました。
3ヶ月の海外経験だけではなく、帰国してからも社内外で揉まれたと言っていいでしょう。
結果的には、このブラウニーはソニープラザ(現プラザスタイル)などで大ヒットしました。会社としては、最初から成果を期待していない、ましてやブラウニーが本当に売れるとは思っていませんでした。
思い切って1コンテナ分の投資をした訳ですが、売上ではなく、人財やノウハウという会社の財産として、1コンテナ分投資以上の価値があったと思っています。
また、ヒットしたからこそ色々な検証が出来ました。
海外ビジネスに慣れた人財ではなく、素人が短期間で行っているということに本人達の強い責任感があり、一方国分というブランド力がバックボーンとなったのが勝因だと思っています。
また、彼女達には仲間を引き付ける力もありましたね。
別案件ですが、2年前には韓国にカレーショップを出店しました。
実際の出店にあたっては、社員1名が2週間、北海道のカレー屋さんで毎日、朝の8時から夜の11時まで出勤し、レシピ、店構え、集客、仕入れ、オペレーション、経理などカレー屋さんに関わるすべての業務を修行してきました。
その執念は、そのお店の店長、店員も舌を巻くほどでした。
その1号店が採算に乗ったので、今年の夏、いよいよ鍾路(チョンノ)に2号店を出店しました。
これもチャレンジャー制度の副産物です。 海外チャレンジャー制度は、スタートからこれまで約50人が海外に行きました。
成功するということは大変ラッキーで、実際は上手くいかないことの方が多いのは事実です。
会社としては、3ヶ月間の成果を求めるのではなく、海外プロジェクトを立ち上げた際に、すぐに参画できる人財を脈々と社内にプールする=下地を作ることが目的です。
また、手を挙げたらチャンスをつかめるということを大事にしたいと思います。
1回で選ばれなくても、気概があれば何度でも手を挙げていいのです。
社内選考基準としても、同程度の企画内容で英語が出来る人財と出来ない人財がいた場合、英語は渡航前までに必死に勉強します!という気概を持った人が選ばれるようになっています。
若いビジネスパーソンへのアドバイス
女性たちよ、腹をくくれ!!もっと前に出よう!
日本では、まだまだ女性の社会進出度は低い状況にあります。
ところが、若い人などを見ていると、優秀なのは女性だったりするケースが多くあります。
当社としても、女性が活躍できる制度・環境を作っています。
後は、女性自身が乗り越えて行って欲しいと思います。
よく「会社はどうしてくれるんですか」「会社はどうしようとしているんですか」という人がいますが、会社という意思を持った人がいる訳ではありません。
会社は、私達一人一人が作っているのです。
ですから、これから女性はもっと手を挙げて、前に出て欲しい。
チャンスは、会社が与えます。
ただし、その時は女性も逃げずに腹をくくって欲しいと思います。 女性に公私ともに活躍してもらうために、当社でも女子ゴルフ部などを立ち上げてみました。
次に業界内に声を掛け、女子のゴルフコンペを呼びかけました。
そして、今年11月に第1回目が開催されます。 女性も、もっと広く交流することで視野を広げ、お互いに刺激し合い、新しい視点が出てくることが大事だと思っています。
女性の活躍で、これからの日本に強さが出てくると信じています。
■取材チームからの一言
インタビューの中では、清水常務ご自身のことについて伺うことが出来ました。
小田実の著書「何でも見てやろう」に刺激を受けた常務は、大学を1年休学して、横浜港から1人でロシアのナホトカに渡り、そこから大陸横断鉄道でヨーロッパまで遊学したそうです。
英会話はさっぱりでしたが、ケンブリッジにある大学の入試を受け、15クラス中下から2番目のレベルのクラスで、小学生以下の英語力で積極的に話かけるアフリカ人の隣で勉強したとのこと。
最初はプライドが邪魔をしましたが、その時、前に出ていかないとチャンスはつかめない、力はつかないことを痛感したと言います。
学生なりにリスクを負った経験が、現在は大きな懐となって、国分の人財開発において、社員に様々なチャンスを与えるアイディアや仕組みを生み出していらっしゃるのだと思います。
また、常務は、第一志望だった某会社の面接の帰り道、たまたま通りかかった国分に”アポなし”で面接を願い出たことがあったそうです。
時代の良さもさることながらながら、国分自体も懐の深い会社で、驚くことにその日面接に応じてくれたそうです。
当然企業研究も事前準備もないまま望んだ面接で、面接官から「今日は国分のパンフレットをあげるから、よく勉強して、やっぱりウチに来たかったらもう一度おいで」と言われたとのこと。
常務は、その時もう一度チャンスを与えてくれた国分に感謝し、入社後もそして今も国分が大好きだとおっしゃいます。
国分は、先人が積み上げてきた信用と社内外の信頼関係を大きな力として、それを継続していくこと、そして継続していくためには変化に対応していくことを大事にしています。
変化に対応するためには、時にリスクを取る、腹をくくる必要もありますが、国分という会社自身と人財開発の責任者である常務の懐の深さが、国分がこれからも長期にわたって日本を代表する企業であり続ける秘訣の1つであると感じました。