エイベックス・グループ・ホールディングス株式会社
執行役員 総務人事本部長
三浦 卓広 氏

エイベックス・グループ・ホールディングス株式会社 執行役員 総務人事本部長 三浦卓広氏インタビュー

エイベックス・グループ・ホールディングス株式会社
執行役員 総務人事本部長
三浦 卓広 氏

三浦 卓広(みうら たかひろ)氏

平成14 年8 月 当社管理本部総務部長代理
平成16 年6 月 当社執行役員(現任) 当社管理本部人事部長
平成18 年4 月 当社グループ管理本部総務人事部長
平成19 年6 月 当社コンプライアンス委員(現任)
平成22 年4 月 当社総務人事本部長 (現任)
平成23 年12 月 エイベックス・マネジメント(株) カンパニー統括室(現任)

わずか20数年で、今や国内音楽業界を代表する企業となったエイベックス・グループ。
世の中に“感動”という価値を創出するエンタテインメントビジネスを担う社員たちは、どのような環境で育まれ、エイベックスDNAを継承してきたのか、その人財育成の秘密に迫ります!
経営陣の一人であり、人事の舵取りを行っている三浦執行役員に、社員に対する熱い想いを伺いました。

ビジネスポリシー ~企業として大事にしていること

世の中に感動価値を創造していくのは、仲間に対する「愛」と「信頼感」があってこそ

エイベックス本社

当社は、もともとは音楽好きの人間が集まってスタートした企業ですが、現在、グループとして「感動価値創造企業」となることを目指しています。 「感動価値創造企業」とは、

・新たな感動を提案できること

・共有型の感動を提供できること

・感動を通じた社会貢献ができること

この3つの要素が揃った企業だと考えています。 これらを実現するには、とても基本的なことですが、当社のコンプライアンス・ポリシーの前文でも語られている「愛」と「信頼感」が重要だと思います。
創業以来、私たちがエンタテインメントを仕事にしている以上、このことは、今もそしてこれからも変わらないことだと思います。 エンタテインメントの本質は、人と人が血の通った関わりを持ったり、感動体験を共有するものだと考えますので、根底に愛情を持ち、仲間を信頼することが大事なのは、当然なことなのです。
感性の世界は、とかく自己の価値観に偏重しがちですが、自己満足ではなく、相手を想う/思いやる気持ちを持って、人と人とが信頼感でつながっていくことが大切だと考えているからです。

エンタテインメント

当社は1988年に創業し、この24年の間に急速に大きくなり、現在グループ従業員は1600名を超えました。
それだけの人数が一丸となって同じ目的を達成するのですから、その意味でもやはり気持ちがつながっていないといけません。 加えて、当社グループは常に「挑戦」する姿勢を大事にしています。
既定概念や固定観念にとらわれず、新しいことに挑戦する。このマインドが、数々のアーティストのヒットやBeeTVなど、これまでに無かったエンタテインメントを生み出したのだと思います。当社のライバルはレコード会社ではありません。
他社や他業界というより、当社の中にあるレガシーや過去の成功体験がライバルであるという気持ちで、自己否定・自己革新を続けながら、常に新しいものを求めて変化することをやめない、それこそが当社のビジネスポリシーと言えるでしょう。 エイベックスは「感動価値創造企業」を目指し、レコード会社でもない、プロダクションでもない、新しいエンタテインメントレイヤーでこれからのビジネスを展開していきます。
そして、日本のエンタテインメント業界のためにも、新たな音楽と映像のプラットフォームを確立させたいと考えています。

続きを読む 2/5
求める人財像

求める人財像

適応力と地頭に加えて、想いをビジネスとして実現・具現化できる人、俯瞰的な自己否定から新しいものを生み出し、挑戦を恐れない人

求める人財像

数年前、新卒採用における求める人財像を決めることを目的に、上級管理職を集めて徹底的に議論したことがありました。
そこで出てきたのは、“適応力”とか、“地頭の良さ”とか、どこの企業でも当てはまるようなものが多かったのです。
ある意味特殊な業界と思われている当社ですが、やはりベースとして持っていてほしいものは一般企業と同じです。 今、あらゆる業界において、スピード感が求められています。
その中でも、当社のおかれているエンタテインメント業界は、他業界とは比較にならないほど激しく変化していきます。
しかし、変化が激しいからこそ、ブレない普遍的な資質が求められるのではないかという結論に至ったのです。 ”適応力”とは、単に周囲に合わせていく順応力とは違います。
自分の意見・考えを持ちながら、周囲との違いや変化をとらえ、そのギャップをしっかり認識した上で、どうしたら上手くいくのかを考え、行動できる力が適応力だと思っています。
”地頭の良さ”とは、”鳥の目”と”虫の目”の両方を持っていることです。
エンタテインメントは、ある意味、個人の趣味嗜好の世界ですから、ややもすれば独りよがりな見方や価値観になりがちです。
しかし、地頭の良いひとは必ず”鳥の目”を持っていて、自分自身を含めてものごとを俯瞰することができます。
”虫の目”で寄って見る、突き詰めて考えることもでき、”鳥の目”で引いて見る、全体最適・調和を考えることもできる、帰納と演繹を行ったり来たりできる人は、実際の仕事もデキる人が多いと感じています。
”適応力”と”地頭”という基本的なベースに、当社グループの特徴としてプラスして求めるのは、”旺盛な好奇心”と”鋭い洞察力”、世の中の”ニーズを的確につかんで発信”していく力です。
そして、一つのことをやり遂げるための”強い意志”を持ち、他者の価値観を尊重して意見に耳を傾けながらも周囲を巻き込んで仕事を進めていくことができるということがポイントです。

求める人財像

感性の世界ですから、自分が良いと思ったことに対して、他から批判があったり、横槍が入ったりすることも多々あります。
しかし、良いと思ったことは諦めない意志と同時に、実際やり遂げるための実現力-これはやはり先ほどの適応力と地頭にも関連します-が大事だと思います。
また、この人は面白い、一緒に何かやりたいなと思わせる力、”人間的魅力”と言いますか、そういったものもやはり必要でしょうね。 グループ全体で今後の成長の核となり得る新規ビジネスを続々と仕掛けているのが今のエイベックスです。
これから加わる方もその担い手ですから、最初から枠にハマるのではなく、自らの手で新たな発想をビジネスとして”具現化”していける力と”推進力”を必要としています。
そのため、スペシャリスト的人財の他にも、(特に新卒採用は)特定の部門や業務に対する適性だけにとらわれるのではなく、ポテンシャルを重視して幅広い志向の人財を採用していきたいと思います。 また、当社は「誰もやらない、だからエイベックスがやる」という精神のもと、世に中にセンセーショナルなコンテンツやサービスを提供し続けてきたからこそ、厳しい市場環境の中で今こうして生き残っているのだと思います。
社長の松浦の表現を借りれば、正しい方程式を使って、すべてのことを要領よく平均的にこなすタイプというよりも、「そもそもこの方程式は正しいのか?」と考えて角度を変えて見てみたり、一度ゼロベースにしてみたり、そうやって自ら方程式を作れるような人財も必要だと考えています。
市場や業界は刻々と変化していますし、ユーザーのニーズや価値観も非常に多様化していますから、既存の方程式やフレームワークは通用しないことが常なのです。
当社のビジネスポリシーにもつながってきますが、新しいことに”挑戦”することを恐れない人財が、エイベックスに必要な人財と言えるでしょう。

続きを読む 3/5
人財開発方針

人財開発方針

OJTで継承されていくエイベックスDNAと、プログラムによるスキル変革・キャリア開発のバックアップ体制

人財開発方針

当社は、上司と部下がしっかり対話をしながら、OJTの中で課題意識を持ち、課題を解決する中で仕事の仕方やコツを習熟していくことが、社員の成長のベースになると考えています。
なぜなら、当社は創業当時からの「エイベックス」らしさ(DNA)が強みであり、DNAは座学や形式知などで継承されていくものではないと考えているからです。
ビジネスの実践の場で、コミュニケーションと実際の課題に取り組むことで、受け継がれ、磨かれていくものだと思っています。 同時に、研修などOffJTで言えば、自ら向上し学びたい人にはしっかりと学べる環境を整えて提供することと、会社が期待する人には成長機会の場を提供すべく様々なプログラムを提案し参加してもらっています。
特に、最近ではデジタル領域の世界観や作法、マネタイズの方法論を研究するような勉強会を、基本篇・応用篇と開催し、希望者参加で延べ500人の社員が受講しました。
このような自らのスキル変革を後押しする研修も積極的に実施しています。 また一方では、ライフポートフォリオ研修という名称で、キャリアとプライベートの両面からライフプランを考えるというプログラムを実施し、社員一人ひとりが満足のいく人生を送れるよう、若年層や育児中、ベテラン社員にいたるまで、自ら考える機会を提供しています。 人財開発というくくりで言えば、2011年度から本格的にスタートさせた積極的なジョブローテーションの実施によって、本人の視野を広げること、また業務上の無意味な踏襲を避けたり、それぞれの業務の細かい点をブラッシュアップさせることを実現しつつあります。
このジョブローテーションは、20代~30代前半の若手社員をメイン対象としていますが、最初の配属部署という狭い世界からの影響を受けて個人特有の仕事のやり方や考え方を固める前に、できるだけ多くの業務経験をして、多様な価値観と出会ってほしいと思うからなのです。これは、先のポテンシャルを重視した新卒採用方針とも連動しています。
環境変化に対応し、企業のビジネスモデル・仕事量・求められるスキルは変化します。
それに対する打ち手としてこのジョブローテーションを位置づけ、柔軟で対応力の高い組織創りを目指しています。
もちろん、専門スペシャリストのような仕事もありますから、同じ仕事を長い間経験してもらうこともありますが、原則はこういう考え方です。 また、キャリアポスティング制度というものをつくり、1年に1度社員に自分のキャリアについて棚卸しをし、考えてもらう制度も導入しています。 それには、自分がどのようなキャリアアップを目指しているのか、どんな強みを活かしていきたいのか、具体的にどんな仕事を実現したいと思っているのかなどを書いてもらい、改めて自己のキャリアプラン、あるいは自分自身について考えてもらいます。
その内容を上司と人事も共有し、本人との面談を通して今後のことを一緒に考えるのです。
ジョブローテーションとともに、長期の人財育成の観点で、社員のキャリア発達を促します。

続きを読む 4/5
ユニークな人財開発プログラム

ユニークな人財開発プログラム

「実感」「体感」することで、身体にしみ込むプログラム

ユニークな人財開発プログラム

当社特有のプログラムと言えば、先ほど申し上げたデジタル研修に加えて、制作倫理講習会(制作物を世の中に出す際に守るべき内容を学ぶ)や、レコーディング・マスタリング講座(レコーディングからCDに音を入れるまでの流れを知る)、著作権講座などエンタテインメント業界ならではの研修を実施しています。 また、毎年新卒内定者を対象にしている、a-nation(エイベックス・グループが開催する夏の野外ライヴフェス)でのエコ活動などでしょうか。
過去には全社員を対象に、当社所属アーティストのLIVE見学研修をやったこともありました。
これは、エンタテインメントをつくりだすことを仕事にしている我々自らがエンタテインメントに触れることで、頭で考えるだけではなく体感して自分たちの仕事に活かすという意味合いで実施しました。
その意味では、直接的な教育ではないかもしれませんが、エイベックスで直接雇用している障がい者アスリートのパラリンピックでの活躍の支援・応援や、全社員対象の社員旅行なども、エンタテインメント企業としてのありようや意識付けという観点で、非常に意義のあることだと思っています。 人を楽しませるにはまず自分が楽しむ、人を感動させるにはまず自分が感動する、そういったマインドの現れです。
研修といっても、ユニークさが先に立ったり、あまりにも座学に寄ったりすると、実際のビジネスとは乖離してしまいます。
自らのビジネスに引き寄せて考えることができ、かつ心(本質)にしみ込むプログラムを工夫しています。

続きを読む 5/5
若いビジネスパーソンへのアドバイス

若いビジネスパーソンへのアドバイス

自分の人生哲学に正直に生きよう!

日本経済の低迷が叫ばれて久しく、打撃を受ける業界や企業も多い中で、何が正解かわからない時代です。
最近の若い人は“安定志向”だと言われていますが、今日の状況を不安視したり、諦めたり、萎縮したりするのではなく、動向が変わり続け柔軟である今こそ、新しいムーブメントを起こすチャンスだと捉えて、是非自分の夢に向かって挑戦していってほしいと思います。 どうせ答えのない時代なら、いっそ自分の哲学や美学を信じて、本当に好きなこと・やりたいこと・自分が輝ける場所を求めてもいいのではないかと思っています。
そして、何かを達成してもそこで満足して立ち止まることなく、謙虚な姿勢を忘れず、前進するための夢やビジョンを持ち続けることが、自分を、そして周囲を、少し大げさに言えば日本を豊かにしていく原動力になると思います。

■取材チームからの一言

エンタテインメントは感性の世界です。
感性のお話をしているうちに、いわゆるクリエイターではなく、「人事マンの感性」のお話になりました。
三浦役員は、人事においても「美しいかどうか」を基準にしているそうです。
たとえば、人事評価の場合、既定の評価制度(基準やプロセスなど)にのっとって積み上げたある社員の評価結果が、「美しいかどうか」を最後に必ずチェックするとのこと。
制度によって算定された評価結果と、エイベックスらしさというDNAを脈々と受け継ぐ環境の中で仕事をした場合に想定される評価を突き合わせてみたときに、違和感がないかどうかを必ず頭の中でチェックし、違和感がある場合は「美しくない!!」と感じるそうです。
この「美しいか」「美しくないか」を的確に感じ、評価できるかが、まさに「人事マンの感性」であるということです。
「美しくない」のは、精緻につくられた今の人事制度自体に狂いが出てきている/評価者の目が鈍っている/DNAの根源であるところの経営のビジョンやメッセージが上手く伝わっていないなど、社内のどこかに不具合が出ていたり、おかしくなっている可能性があると考えるそうです。
精緻に作られた制度自体に意味があるのではなく、一番良いのは最低限の仕組みでエイベックスらしさがきちんと継承され、その中で活躍している社員が正しく評価されて、輝いていけること。
エンタテインメントという、ある意味、究極の趣味嗜好や感性の世界でもあり、人間の本質的な部分に訴えるものを創造する企業で、人事の面でも”感性”や”DNAの継承”ということが大事にされているというのは、大変納得のいくことでした。
また、市場の変化はますまずスピードアップし、人々の価値観も多様化・細分化する中で、私たちは目先のことにかまけたり、専門性・没頭という大義の下に視野が狭くなってしまっているケースが少なくありません。
”感性””DNA”の一方で、独りよがりに陥らない”鳥の目”の重要さについても、三浦役員は、形を変えながらお話の中で何度も触れられ、ビジネスとしてのエンタテインメントのあり方と上場企業としての責任といった面でも、創業からわずか24年で日本を代表する企業に成長された理由を見た気がしました。

関連記事はこちら

連載一覧